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為替レートの変動が設備投資決定に与える影響は、生産コスト面のみに集約される国際的に同質的な財市場が形成され、そこで一物一価が成立しているという条件をはずせば、設備投資の決定についても違った側面がみられる。 ここで我々は、財市場が独占的競争状態にあるという考え方を導入する。
例えばパーソナル・コンピュータのように、大量の計算に強みを発揮する機器やグラフィック機能に優位性を持つ機器など、同じ品種の中で性能的に分化した機器が多数存在する場合がある。 こうした製品については、すべてを同質的な財として一括することはできず、消費者側も製品特性に応じた効用を有すると考えられる。
このように製品特性が分化している場合、各製品についての需要は、その製品価格と製品群全体の平均価格に依存することになる。 すなわち、その製品価格が製品群全体の平均価格に対して上昇すれば、その製品に対する需要は減少し、逆の場合には需要が増加する製品に対する需要量を横軸にとり、製品の相対価格を縦軸にとれば、右下がりの需要曲線が描けることを意味する。
ある特定の製品を生産する企業にとって、需要曲線が想定できるということは、その企業がその製品の販売に対して独占力を発揮できるということを意味するこの市場は単なる独占市場ではない。 もし特定の製品を生産している企業の価格が、長期的な平均費用を上回るようであれば、新たな競争者が市場に参入するか、既存の企業が設備を拡大して、より安い価格でその製品を販売しようとする。
どのような特性を有する製品も長期平均費用を上回ることはなく、それを上回ると競争者が現れるという意味で市場は競争的なのである。 このように、製品の特性からその製品の生産者は一定の独占力を有するものの、長期平均費用を超える価格付けがおこなわれると、競争者が現れ、長期平均費用に等しい価格が成立するというような市場を「独占的競争市場」と呼んでいる。
独占的競争と望ましい資本ストックでは独占的な競争状態が支配的であると考えている。 こうした考え方は、実質為替レートが必ずしも安定的でない(すなわち貿易財市場が完全競争的でない)という事実と整合的であり、わが国の輸出の大半が、製品差別化をおこないやすい機械産業の製品であることとも符合している。
もし、同一国内の貿易財産業の各企業が費用条件の面で同じだとすると、自国(例えば日本)の製品に対する需要は、共通の通貨単位で測った自国製品の価格と外国製品の価格の比、すなわち実質為替レートに依存することを示すことができる。 外国製品は日本製品に比べて割高となる。

日本と外国の製品は同質的ではないから、こうした価格競争力の変化は名目為替レートの変化によって調整されないと考える。 企業は望ましい資本ストックが現状の資本ストック量を上回った場合、その望ましい資本ストック量を達成するべく設備投資をおこなう。
望ましい資本ストックの増加要因は、同時に設備投資の増加要因でもある。 設備投資に国際競争力がどのような影響力を与えているかということであるから、その対象となる産業には、取引コストや保護政策その他の理由から自由な国際貿易がおこなわれていないような産業は含まれない。
国際競争力の指標である実質有意となっている為替レートが円高方向に進むと価格競争力が低下し、日本企業の製品シェアが減少するなかで設備投資が減少することを示している。 プラザ合意後の円高期における設備投資への影響でみてみよう。
中間投入財価格の低下は、資本の限界生産力を上昇させることを通じて設備投資を増加させることになる。 さて、円高は製品価格の競争力を弱める一方で、エネルギーなどの輸入に依存している中間投入財の価格を低下させる。
この中間投入財価格の低下は設備投資を促進させると考えられるがどの程度の効果をもっていたのであろうか。 先ほどの実質為替レートが設備投資に与える効果の試算と同様に考えると、まずプラザ合意後の円高期における中間投入財価格/資本コストの低下率は、約二O面での価格競争力の低下による設備投資の減少を補うほど設備投資を増加させた八七年に入って実質(実効)為替レートはさらに円高方向へ進行したのに対し、中間投入財価格/資本コストは、金利の低下から反転しわずかながら上昇傾向を示した。
八八年からの製造業設備投資の回復には、賃金/資本コスト比や製造業に対する需要要因など別の要因が寄与していたと考えられる。 一方九三年前半の円高では、中間投入財価格/資本コストの低下はわずか三%しか低下しなかった。
中間投入財価格/資本コストの低下による設備投資の増加は、製品の価格競争力の低下に伴う設備投資の減少分をカバーしていない。 三本の推計結果から二つの効果を合わせた設備投資への影響を考えると、九三年の円高期においては、実質為替レートで計算した場合は一・五%、実質実効為替レートで計算した場合は七%程度設備投資の減少がおきたとみられる。

もっとも、中間投入財価格の低下についてはラグを伴って現れることもあり、設備投資の促進効果が本当に小さいかどうかについては留意する必要がある。 以上製造業設備投資関数の結果を要約すると、製品の国際的な価格競争力の変化に関しては、設備投資の変動要因として作用していることが確認された。
八三年からの設備投資の増加は、実質為替レートが円安局面にあったからであり、フラザ合意後の円高は、設備投資の減少に寄与していた。 円高は中間投入財価格を低下させることによって設備投資を促進し、製品の価格競争力低下による設備投資減少分を相殺する働きをしていたこうした中間投入財価格の低下効果も八七年中には消失したため、八八年からの設備投資の大幅な増加には、製造業に対する需要の増加や賃金/資本コスト比が寄与していたとみられる。
九三年前半の円高については、製品価格競争力の低下に伴う設備投資の減少効果が中間投入財価格の低下に伴う設備投資の増加効果を上回ったとみられる。 またこの時期は、米国経済の復調はあったものの、先進国景気は総じて低調であり、製品需要も伸び悩んでいた。
九三年の円高期は、プラザ合意後の円高期に比べてもより製造業設備投資が落ち込むことになった。 完全雇用の仮定に加えて、暗黙に完全競争的な貿易財市場が仮定されているためである。
一方これまでの我々の分析は、製品が独占的競争市場で取引されている世界を考えてきた。 そしてこの独占的競争の世界では、企業の設備投資行動は実質為替レートの動きに影響されうることが示され、製造業設備投資関数の推計を通して、日本経済においても我々の議論がある程度妥当することが確認きれた。
財政赤字の拡大は、等しい額だけ圏内の貯蓄超過を減少させるので、IS曲線を矢印のように左に移動させる。 この結果実質為替レートは円高となり、経常収支の黒字は縮小する。
実質為替レートの増価と経常黒字の縮小が小さくなる財政赤字の拡大に伴って貯蓄超過が縮小するものの、同時に生じる実質為替レートの円高方向への変化が設備投資を減少させ、貯蓄超過の縮小効果を一部減殺するからである。

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